遺言で、かわいい孫に財産を渡してあげたいと考える場合もあるでしょう。
この記事では、遺言で孫に財産を渡す場合に注意すべき点について解説します。
遺言で孫に財産を渡すことは可能か
孫は、その孫の親である子が存命であれば、原則として相続人ではありません。
では、相続人ではない孫に遺言で財産を渡すことはできるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
遺言書があれば相続人ではない孫に財産を渡せる
遺言書があれば、孫に財産を渡すことも可能です。
遺言書で財産を渡す相手には特に制限はなく、相続人に対してはもちろん孫などの相続人ではない人に財産を渡すこともできるのです。
遺言書がなければ孫に財産は渡せない
その孫が相続人ではない場合、仮に遺言書がなければ孫は財産を相続することができません。
そのため、ご自身が亡くなった後で孫に財産を渡してあげたいと考えているのであれば、ぜひ早いうちから遺言書を作成しておいてください。
遺言で孫に財産を渡す場合の注意点
では、孫に財産を渡す内容の遺言をつくる場合、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。主な注意点として4つご紹介します。
「相続」ではなく「遺贈」になる
相続人ではない孫に財産を渡す場合には、「相続させる」ではなく「遺贈する」という言葉を使います。
「相続人に対してであれば相続、相続人以外に対してであれば遺贈」と整理されることも多いのですが、実は法律上、「相続」と「遺贈」とはその性質が少し異なり、相続人に対してであれば「相続させる」ことも「遺贈する」ことも可能です。とは言え、通常は相続人に対してであれば、「相続させる」という言葉を使うことが一般的です。
その一方で、相続人ではない方に対して「相続させる」ことはできません。相続人以外に遺言書で財産を渡すのであれば、「遺贈する」の一択になります。
遺言書は遺言書をつくった方の意思をできるだけ推測して解釈することとされていますので、孫へ「相続させる」と書いてあったからと言ってただちにその遺言書が無効になるわけではありませんが、無用な問題を生じさせないためには、やはり正しい用語を使っておいた方が安心です。
遺留分に注意
遺言書で孫に財産を渡したい場合には、遺留分にも注意しておいてください。遺留分とは、子や配偶者など一部の相続人が持っている、最低限保証された相続での取り分を言います。
例えば、遺言者には長男と二男がいるにもかかわらず、「長男の長男である孫に全財産を遺贈する」という内容の遺言書を作った場合で考えてみましょう。
まず、遺留分を侵害したこのような遺言書をつくること自体はできます。
しかし、その後遺言者が亡くなり遺言の執行がされたあとで二男から財産の遺贈を受けた孫に対し、「自分の遺留分を侵害しているので、侵害した遺留分相当額をお金で返してください」と請求がなされる可能性があるのです。この請求を「遺留分侵害額請求」を言います。
この請求をされると、孫は遺留分請求をした二男に対し、実際に遺留分相当の金銭を支払わなければなりません。もらった財産が金融資産ばかりであれば良いのですが、仮に簡単には換価できない自宅などが主要な財産であった場合には、遺留分の支払いに困ってしまう可能性があります。
遺留分を侵害した遺言書が必ずしもダメということではありませんが、遺留分を侵害した遺言書をつくる場合には、この点をよく理解したうえで作成するようにしましょう。
なお、遺留分は、2019年7月1日から施行されている改正民法で、原則として金銭での請求となっています。
遺言執行者を選任しておく
遺言書で孫に財産を渡す場合には、その遺言書で、遺言執行者を選任しておきましょう。
遺言執行者とは、遺言書を遺言書どおりに実現する責任者のことだと考えてください。孫など相続人ではない人へ財産を遺贈する場合には、その実現に際して、「遺言執行者」か「相続人全員」の協力が必要です。
相続人の中に遺贈に反対をしている人がいれば厄介ですし、仮に相続人が全員遺贈に協力的であったとしても、いちいち複数の相続人のハンコをもらうとなれば、非常に煩雑でしょう。
そのため、遺言書のなかであらかじめ、遺言執行者を定めておくと安心です。
なお、仮に遺言書で遺言執行者の指定が無かった場合には、相続が起きてから、家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらうこともできます。
相続税や登録免許税が高くなる
相続人ではない孫に財産を遺贈した場合には、相続税や登録免許税が高くなります。
まず、その相続に相続税がかかる場合、孫が受け取った財産に相応する相続税が2割増しとなります。相続税がかかる場合には、この点も知っておいてください。
また、不動産の名義変更をする際に法務局に支払う登録免許税も高くなります。この登録免許税は、相続であればその不動産の固定資産税評価額の「1,000分の4」に軽減されている一方、相続人ではない人に財産を渡す遺贈の場合には「1,000分の20」であるからです。
この点は、孫に不動産を遺贈する場合には知っておくと良いでしょう。
とは言え、「相続税や登録免許税が高くなるなら財産をあげるのはやめよう」ということではないかと思いますので、こちらはあくまでも参考としてとらえていただくと良いと思います。
孫に財産を渡す遺言書はどの種類でつくるべき?
では、孫に財産を渡す遺言書を作りたい場合、どの遺言書を選択すれば良いのでしょうか。自筆証書遺言と公正証書遺言の比較から、考えてみましょう。
自筆証書遺言の問題点
まず、自筆証書遺言の場合には、費用が少なく、手軽な感じがする点がメリットです。また、2020年からは法務局での保管制度もはじまっていますので、保管制度を使うことで、従来の問題点はかなり解消されました。
とは言え、法務局での保管制度を使ったとしても、孫へ遺贈する場合には、やはり自筆証書遺言はあまりおすすめしていません。その理由は、次のとおりです。
全文自筆のハードルが高い
まずは、全文自筆のハードルが高い点が挙げられます。
民法改正により、財産目録の部分のみは自筆を要しないこととされました。しかし、本文については引き続き自筆が必須とされています。遺贈をしたい相手の氏名や住所を間違えずに記載したり、その全文を正しく記載することは、考えているよりも大変なことなのです。
また、書き損じた場合にも、単に二重線を引いて押印をするだけではなく、より厳密な方法での訂正が求められます。訂正方法を誤ると、遺言者の意図とは異なる内容で遺言が執行されてしまうかもしれません。
このように、自筆証書遺言は全文を自筆したり、万が一書き損じた場合には厳密な方法で訂正をしたりという点でハードルが高いといえます。
保管の申請には本人が出向かなければならない
また、法務局の保管申請をする際には、必ず本人が出向かなければならない点も知っておいてください。いくら弁護士や司法書士などであっても、代行はで認められていないのです。
そのため、法務局へ出向くことが難しい場合には、保管制度の利用は困難でしょう。
内容はチェックされない
法務局での保管申請時には、方式違背はないかという点はチェックをしてもらえます。しかし、原則として、内容についてアドバイスをくれるわけではありませんので、この点も知っておいてください。
自筆証書遺言である以上、作成の責任はあくまでも本人にあり、法務局は保管をしてくれるだけなのです。
遺言能力の証明が難しい
また、遺言者がその遺言書を作る能力があったのかという証明が難しい点も、自筆証書遺言の問題点です。
遺言能力とは、「その遺言書の内容を本人がきちんと理解をしたうえで遺言書をつくる能力」のことだと考えてください。自筆証書遺言では、自分1人で作成することが通常ですから、この証明が難しくなります。
例えば、相続が起きてから、「父ちゃんはあのときもうボケていたのに、内縁の奥さんに無理やり手を持って遺言書を書かされたんだ」などと言われたときに、反証が困難なのです。
個人的には、この点がもっとも大きな自筆証書遺言の弱点だと考えています。
公正証書遺言がおすすめ
自筆証書遺言には、たとえ法務局での保管制度をつかってもこのような問題点が残ります。そのため、孫に財産を遺贈したい場合には、やはり公正証書遺言で作成しておくべきでしょう。
公正証書遺言であれば、公証人や証人の面前で作成するため、本人が本人の意思でつくったという記録が残りやすいのです。また、自筆をする必要もありませんし、外出が難しければ公証人に出張をしてもらい作成することもできます。
たしかに、自筆証書遺言とくらべて費用は掛かってしまいますが、ご自身が築き、守ってきた大切な財産を大切な相手に渡すための大事な書類です。そこは保険と考え、確実な公正証書遺言で作成しておいていただきたいと思います。
この記事を書いた池邉からひとこと
遺言でお孫さんに財産を渡すことも可能です。ただし、本文で記載のとおりいくつかの注意点もありますので、これらも踏まえて作成されると良いでしょう。
しかし、問題なく手続きができる遺言書をご自身だけでつくるのは容易なことではありません。こちらに書いたことはあくまでも一般的な例であり、状況によっては他の注意点などが生じる場合もあるためです。
思わぬ問題を後世に残してしまわぬよう、遺言書はぜひ専門家のサポートを受けて作成されることをおすすめします。
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