遺留分を侵害した遺言書は無効なのか
「遺留分」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか。遺留分とは、一定の相続人に保証された、相続での最低限の取り分のことを言います。では、相続人の遺留分を侵害した遺言書は、無効になってしまうのでしょうか。
この結論は、NOです。相続人の遺留分を侵害したからといって、遺言書が無効になることはありません。しかし、後のトラブルを防ぐためには、遺言書を作成する際は、遺留分への配慮が必要です。
遺留分侵害の具体的事例
では、遺留分を侵害するとどうなるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。分り易くするために、ちょっと極端な事例にしています。
Aさんには、娘が一人いました。しかし、長年連絡が取れず、非常に親不孝だと感じています。
Aさんは娘に財産を渡すより、娘のように世話をしてくれた姪に、全財産を渡したいと考え、「姪の花子に全財産を遺贈する」という内容の遺言書を作成しました。
Aさんの娘には、遺留分があります。しかし、まず、姪に全財産を遺贈するとしたこの遺言書自体は、他の要件等に問題がなければ有効です。前述のとおり、遺留分を侵害したからといって無効になるわけではないためです。
そして、Aさんの死後、姪の花子さんは、この遺言書に従って、実際にAさんの全財産を引き継ぐことになります。
しかし、問題はここからです。Aさんの娘は、花子さんに対し、「自分の遺留分を侵害しているので、遺留分に該当する分はお金で返して」と請求することができます。これを、「遺留分侵害額請求(いりゅうぶん・しんがいがくせいきゅう)」と言います。この請求をされたら、原則として姪は応じなければなりません。
遺留分を侵害した遺言書による相続は、おおむねこのような流れです。
無効にはならないが、侵害額請求への対策を
遺留分を侵害したからといって遺言書が無効になるわけではありませんが、遺留分侵害額請求をされる可能性がある以上、請求への対策はしておくべきです。
本例で、娘が持つ遺留分は全財産の2分の1です。仮にAさんの財産の大半が不動産であったような場合には、姪は、遺留分請求の対応に苦慮することにもなりかねません。
遺留分を侵害された相続人が、請求をしそうかどうか。請求されてトラブルに発展するくらいなら、最初から遺留分相当分は娘に渡しておいた方が良いのではないか。それでもあえて侵害した内容での遺言書を作成するなら、侵害されたときにどの財産から支払うか。こういったこともきちんと検討した上で遺言書を作成しておかなけえば、感謝しているはずの姪を、寧ろ困らせてしまうことにもなりかねません。
遺言書は、法的な要件さえ満たしていればそれで良いというものではなく、問題のない遺言書の作成は、思った以上に難しいものです。
残された大切な人を困らせないため、ぜひ、専門家の活用も検討してみてはいかがでしょうか。
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