改正で新設された、自筆証書遺言の保管制度
2018年に成立した改正相続法(民法 相続編の改正)の一環として、法務局での自筆証書遺言の保管制度が新設されました。
では、この制度を利用し、保管が認められたということは、内容に問題がないというお墨付きなのでしょうか。
形式面のチェックはしてもらえる
遺言書の保管申請時には、形式面(所定の様式に合うかどうか)のチェックはしてもらえるようです。そのため、遺言書としての体をなさないものが保管されてしまうリスクは、低くなるでしょう。
保管制度利用=完璧ではない。
ただし、最も懸念するのは、保管の際に形式的な確認がされることから、「問題ない遺言書が簡単に作成できる」という誤解が広まってしまう点です。
公正証書でも自筆証書でも同様ですが、形式的に無効でないということは、あくまでも、問題のない遺言書を作成するための、最低限の要件でしかないためです。
問題のない遺言書を作成するには、形式的に無効でない点はもちろん、それに加えて下記のような、多岐にわたる検討が不可欠です。
- 遺留分のことは検討しているか。もし遺留分侵害額請求をされた場合、支払えるのか。
- 相続税はそれぞれの相続人・受遺者が支払えるのか。
- せっかくの特例が使えない内容となっていないか。
- 不要な譲渡所得がかかる内容となっていないか。
- 手続きはスムーズにできるのか。
- 今後の状況の変化に対応できる内容なのか。
上記は一例ですが、遺言者の状況により、様々な角度から検討し、リスクを減らしておかなければ、いくら形式上は有効であったとしても、残された家族を困らせる遺言書となってしまいかねません。
このような検討が漏れていても、例えば法務局に遺言書の保管を申し出た際に、
「この遺言書だと譲渡所得税が多額にかかりますが、大丈夫ですか。」とか、
「遺留分を侵害していますが、もし請求されたら〇円くらい支払えますか。」
とか、
「この内容だと相続税の特例が使えませんが、良いですか。」とか、
そんなことは原則として教えてはくれません。
見てくれるのはあくまでも、「きちんと署名押印があるか」「財産目録にも署名押印があるか」「日付は書いてあるか」といったような、形式面なのです。
拙著でも記載の通り、問題のない遺言書を作成することは、実はそれほど簡単なものではありません。専門家がかかわった遺言書でさえも、問題のあるものが散見されているほどです。
後世に問題を残してしまわないためにも、無理に一人で作成してしまうのではなく、専門家も活用しながら、後悔しない遺言書を作成して頂きたいと思います。
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