遺言書をつくる際、遺留分を侵害したらその遺言は無効となってしまうのでしょうか。
この記事では、遺留分について改めて解説するとともに、遺留分を侵害した遺言書の効果や遺留分侵害額請求に備えた対策などについて解説します。
遺留分侵害をした遺言は無効か
遺留分とは、一定の相続人に保証された相続での最低限の取り分を指します。では、遺留分を侵害した遺言は無効となってしまうのでしょうか。
遺留分侵害をしても遺言は無効ではない
結論からお伝えすれば、遺留分を侵害したからと言って遺言書が無効になるわけではありません。遺留分を侵害していたとしても、遺言書自体は有効です。
そのため、自筆証書はもちろん公正証書であっても、遺留分を侵害した遺言書をつくることはできます。
ただし遺留分侵害額請求がされる可能性がある
しかし、遺留分を侵害した遺言書を作成した場合には、相続が起きてから「遺留分侵害額請求」がなされる可能性があるので注意が必要です。
例えば、法定相続人が長男と二男の2名である場合、「長男に全財産を相続させる」という内容の遺言書をつくった場合で見ていきましょう。生前贈与などは特にないものとします。
この遺言があれば、相続が起きた後、長男はこの遺言を使って実際に不動産や預貯金など遺言者の財産を自分の名義に変えることが可能です。この名義変更等には、原則として二男の同意は必要ありません。
しかし、この遺言は二男の遺留分を侵害しています。そのため、二男から長男に対し、「この遺言は自分の遺留分を侵害しているので、侵害額に相当する分をお金で返してください」と請求がなされる可能性があるのです。この請求を「遺留分侵害額請求」と言い、この請求をされたら実際に長男は二男に対して遺留分侵害額相当のお金を支払わなければなりません。
遺留分を侵害した遺言書を作ること自体は可能ですが、相続が起きた後でこのような請求がなされる可能性があることを知っておいてください。
遺留分の基本
遺留分を侵害したらどうなるのかが分かったところで、遺留分について改めて詳しく見ていきましょう。
遺留分とは
遺留分とは、一定の相続人に保証された相続での取り分を言います。前述のとおり、遺留分を侵害した遺言も有効ですが、遺留分を侵害した場合には「遺留分侵害額請求」がなされる可能性があるのです。
この「遺留分侵害額請求」をするかどうかは、遺留分を侵害された人の自由です。たとえば前述の例で、二男は遺留分侵害額請求をしない選択もできます。
遺留分侵害額請求の期限は、次のように定められていますので、この期間内に請求されなければそれ以降は請求されないと考えて良いでしょう。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
遺留分がある人は誰?
相続人であれば必ず遺留分があるということではありません。実は、相続人であっても遺留分のない人もいるのです。
相続人になる場合であっても遺留分のない人というのは、第三順位の相続人です。つまり、被相続人の兄弟姉妹や甥姪ですね。
被相続人に子や孫がおらず、両親も他界している場合には兄弟姉妹や甥姪が相続人となりますが、この場合であってもこれらの人には遺留分はないということです。
一方で、これら以外の人(子や孫、配偶者、両親など)には、遺留分があります。
遺留分の割合はどのくらいか
遺留分の割合は、原則として2分の1で、これにその相続人の相続分を乗じて計算するとされています。つまり、長男と二男が相続人である場合の二男の遺留分は、2分の1(遺留分)×2分の1(法定相続分)=全財産の4分の1ということです。
ただし、1つだけ例外があります。それは、被相続人の両親など第二順位の相続人「だけ」が相続人になる場合です。この場合のみは遺留分は3分の1とされていますので、こちらも知っておきましょう。
なお、民法には次のように記載されています。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
遺留分対策としてできること
遺留分を侵害した遺言書を作成することはできるとはいえ、侵害してしまった場合には、前述のとおり遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。
例えば前述の例で二男から長男に対して遺留分侵害額請求がなされた場合、長男に支払うお金がなければ、せっかく受け取った財産を売却したり、金融機関からお金を借りたりする必要が生じてしまうでしょう。そうなれば、財産を渡したかった長男を困らせてしまいかねません。
では、遺留分に備えてできる対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
遺留分侵害をしない内容で遺言書を作成する
まず考えられるのは、遺留分を侵害しない内容で遺言書の内容を検討することです。
それぞれのご家庭にはそれぞれの事情があります。「二男には渡したくない」と感じている方からすれば不服に思われるかもしれませんが、結果的に長男を困らせてしまわないため、二男にも遺留分程度は渡す内容で遺言書を作成することも検討してみてください。
相続人からの廃除を検討する
ある相続人に財産を渡したくない理由が被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行である場合には、相続人から廃除することも検討の余地があります。
廃除とは、家庭裁判所に申し立てることにより、その相続人から相続の権利を剥奪することです。相続の権利がなくなれば、当然遺留分の権利もなくなります。
非常に強い効果がある手続きですが厳密な審査がなされますので、申し立てたからと言って必ずしも認められるとは限りません。例えば、単にそりが合わないとか、一方的な侮辱ではなく親子喧嘩のようなものであれば認められる可能性は低いでしょう。
相続人からの廃除を検討されている場合には、弁護士へ相談してください。
早めからの生前贈与を検討する
遺留分の計算の対象には、遺言で渡した財産のみならず一定の生前贈与も含まれます。しかし、この計算に含まれる生前贈与は、相続人に対する贈与であれば原則として相続開始前の10年間にしたもののみです。つまり、亡くなる10年以上前にした贈与であれば、原則として遺留分計算の対象から外れるのです。
そのため、長男に多くの財産を渡したいのであれば、早いうちからコツコツと生前贈与をしておくことも1つでしょう。こうすることで、贈与から10年が経過したものから順次遺留分の計算から外れていくのです。
また、相続人以外にした贈与は亡くなる直前1年分のみが遺留分計算の対象となりますので、例えば長男自身ではなく、長男の配偶者や子などへ贈与をすることも検討の余地があるでしょう。
ただし、民法には「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前(十年前)の日より前にしたものについても」遺留分計算の対象とすると言う条件がついています。こちらにもよく注意をしてください。この点も、迷ったら弁護士へ相談しましょう。
過去の贈与やお金がかかった事実を記録する
遺言で財産をあまり渡したくない相手(例で言えば二男)にあまり財産を渡したくない理由が、過去に二男にお金をあげたということや二男だけ留学してお金がかかったなどであれば、そのことをしっかり記録しておくのも1つです。
なお、このような理由であり、かつ二男もその時点では協力的なのであれば、二男に生前に遺留分放棄の手続きをしてもらうことも検討すると良いでしょう。生前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可が必要で、放棄をしようとする人への過去の贈与などを加味して判断されます。
遺留分侵害額請求をされた場合に備えて生命保険に加入する
やはり二男に遺留分相当の財産を渡す遺言を作ることに抵抗があり、また二男に遺留分放棄への協力が期待できない場合には、遺留分侵害をする遺言を作ったうえで、万が一遺留分請求をされた際に支払うお金を長男に用意しておく対策をしておきましょう。
具体的には、たとえば遺言者が亡くなったときに長男が生命保険金を受け取ることができるよう、生命保険に加入しておくことなどです。こうすることで、いざ長男が二男から遺留分侵害額請求をされたとしても、長男はこの生命保険金を原資として、二男にお金を払うことが可能となります。
なお、生命保険は財産の全体から比してあまりにも高額であるなどでなければ、原則として遺留分計算の対象となりませんので、この点でも生命保険は使い勝手が良いと言えます。
この記事を書いた池邉からひとこと
遺留分を侵害したからと言って、遺言書が無効になるわけではありません。しかし、遺留分のことを全く考慮せずに遺言を作成してしまうと、結果的に財産を渡してあげたかった相手を困らせてしまう可能性もあるのです。
そのため、遺留分という制度があることを正しく知ったうえで、遺留分を侵害しない内容で遺言を作成したり、万が一遺留分を請求された際に備えた資金を準備したりといった対策を検討しておいてください。
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