遺言書があれば、遺産分割協議は必ず不要になるのでしょうか。そして、遺言書があった場合には、もはや遺産分割協議はできないのでしょうか。
この記事では、このような疑問にお答えすべく、遺言書と遺産分割協議の関係について解説します。
遺言があれば遺産分割協議は不要
原則として、遺言があれば遺産分割協議は必要ありません。
そもそも、遺言の最大の目的は、遺産分割協議を不要とすることにあります。遺産分割協議が不要である以上は相続争いが起きる可能性を格段に減らすことができますし、相続人のなかに非協力的な人がいたとしても相続手続きを進めることができるためです。
まずは、この原則を知っておきましょう。
遺言があっても遺産分割協議が必要になる場合とは
しかし、なかには遺言書があっても遺産分割協議が必要となってしまうケースもあります。それは、どのような場合でしょうか。3つのケースをご紹介します。
遺言書が無効な場合
1つ目は、遺言書がそもそも無効であった場合です。
有効な遺言書がないのであれば、原則どおり遺産分割協議が必要となります。
遺言書から漏れた財産がある場合
また、遺言書があったとしても、その遺言書から漏れてしまった財産がある場合には、その漏れた財産について遺産分割協議が必要となります。
たとえば、遺言書の中では不動産についてだけ言及があり、預貯金など不動産以外の財産については一切定められていなかったような場合です。この場合には、預貯金などについて、別途遺産分割協議が必要となります。
なお、特に理由がないのであえれば、こうした事態をさけるため、「この遺言に記載のない一切の財産は、妻の花子に相続させる。」など、個別指定のない財産の行き先についても定めておくと良いでしょう。
割合のみを記載した遺言書の場合
また、たとえば遺言書で「私の財産は、長男に3分の2、二男に3分の1の割合でそれぞれ相続させる」というように、割合のみで指定をしていた場合にも、遺産分割協議は必要となります。
この場合には、遺言書がなかった場合の法定相続分(法定相続人が長男と二男のみなのであれば、それぞれ2分の1)の割合を、遺言書で修正したに過ぎないためです。
遺言と異なる遺産分割協議は可能か
有効な遺言があれば、原則として遺産分割協議は必要ありません。とはいえ、遺言書の内容が相続人の状況から見て不都合という場合もあるでしょう。そのような場合、遺言書と異なる遺産分割協議を成立させることはできるのでしょうか。
これは、その状況によって異なり、次の条件をすべて満たした場合には、遺言と異なる遺産分割協議を成立させることが可能です。では、1つずつ見て行きましょう。
相続人が遺言で分割を禁じていない場合
遺言と異なる遺産分割をするための1つ目の条件は、被相続人が遺言で、遺言と異なる遺産分割を禁じていないことです。
これは、民法で次のように記載されています。
(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
この条文を裏返せば、被相続人が遺言で禁じている場合には、遺産分割はできないということです。ただし、遺言で遺産分割を禁じる場合というのは、実務上、そう多くはない印象です。
相続人の全員が同意している場合
また、遺言と異なる遺産分割協議をするには、相続人の全員が同意していることが条件です。
例えば、長男に有利な遺言書が残っており、これに納得がいかない二男が一方的に遺言と異なる遺産分割を行うことはできません。この場合には、長男など相続人全員の同意が必要となります。
受遺者がいればその受遺者も同意している場合
また、遺言書に受遺者(ここでは、相続人ではない相手に財産を渡すことだと考えてください)が定められている場合には、その受遺者も同意をしていることが条件です。
たとえば、父が内縁の妻に財産を遺贈することを阻止したいからといって、その内縁の妻を無視して相続人のみで遺言書と異なる遺産分割協議を成立させることはできません。
なお、この余談とはなりますが、仮に遺言書が自筆証書遺言であれば相続人に握りつぶされてしまう懸念もありますので、内縁の配偶者に遺贈したい場合などにはきちんと公正証書で作成し、内縁の配偶者に謄本などを渡しておくと安心です。
遺言執行者がいれば、遺言執行者も同意している場合
また、遺言で遺言執行者が定められている場合には、その遺言執行者が同意をしていることも条件となります。
民法では次のように定められており、遺言執行者の同意なく遺言と異なる遺産分割協議をした場合には、遺産分割が無効となるためです。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
この記事を書いた池邉からひとこと
記事で書いた条件に当てはまれば、遺言と異なる遺産分割協議を行うことはできます。
とは言え、遺言書を残した方は、ご自身が築き守ってきた財産のことや、のこされるご家族のことを一所懸命に考え、遺言書を作成したはずです。ご家族としては、やはりできるだけ遺言者様の想いを汲んで頂きたいと思います。
しかし、遺言者さまの想いに縛られて、残されたご家族が不便を強いられてしまっては、これも本末転倒です。遺言者さまとしては、ご家族を困らせたくて遺言書を残したわけではないであろうためです。ですから、どうしても遺言書が実情に合わないような場合には、遺言書と異なる遺産分割を行うことも検討の余地があることを知っておかれると良いでしょう。
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