民法相続法改正と配偶者。~全財産を自分に相続させるとの遺言書があったとき

相続法改正

2018年相続法改正

2018年に、民法相続編が大改正されました。これにより、相続のルールがいくつか変更になっています。

ここでは、配偶者に対し、全財産を相続させるという内容の遺言書があった場合について解説します。

遺留分請求の可能性

全財産をご自身に対し相続させるという遺言書があった場合には、まず、遺留分のある相続人が他にいるかどうかを判断する必要があります。遺留分のある相続人が他にいない場合には特に気にする必要はありませんが、遺留分のある相続人がいる場合には、請求に備える必要があるためです。

遺留分のある相続人は、配偶者のほかには、子や、子が先に他界している場合の孫などです。また、そもそも子や孫がいない場合、亡くなった配偶者の両親にも遺留分があります。なお、配偶者が前妻との間に子がいるような場合、仮にもう何十年も行き来がなくとも、その子も遺留分のある相続人です。

遺留分の請求をするかどうかは、その遺留分権利者次第です。もちろん、遺留分があっても請求をしないケースも少なくありませんが、一方で、請求されない可能性も否定できません

遺留分の請求期限は、原則として、相続開始と遺留分侵害(遺言書の存在など)を知ってから、1年以内です。

従来は、原則として現物減殺

従来、遺留分は、現物の減殺が原則とされていました。

例えば、相続人が妻と長女の2名である場合。生前贈与などはなく、配偶者に全財産を相続させるという内容の遺言があったとします。相続財産は、2,000万円相当の土地、1,000万円相当の建物、預貯金1,000万円。

この場合、長女から妻に対して遺留分減殺請求がなされると、土地の名義のうち4分の1、建物の名義のうち4分の1、そして預貯金1,000万円のうちの4分の1である250万円が、二男のものとなります。これが原則でした。

そのうえで、仮に妻がそれでは困るという場合には、その価格相当額(この例では、土地分500万円+建物分250万円+預貯金分250万円=1,000万円)を弁済することで、土地や建物が共有となることを防ぐことができていました。

改正で、原則として価格弁済に

改正により、遺留分は価格弁済(金銭債権)となりました。これにより、上記の例で遺留分を請求をされた場合には、妻から長女に1,000万円を支払うべきで、場合によっては分割での支払いを認める方向となりました。

これに伴い、上記の例では、遺留分の請求により土地や建物が共有になるということは原則としてなくなる一方で、遺留分請求をされた際に備え、支払い原資となる現金を用意する必要が生じます。

なお、この改正により、遺留分請求の名称も、従来の「遺留分減殺請求」から、「遺留分侵害額請求」と改められました。

遺留分請求への備え

このように、遺留分の制度が改正されました。そのため、仮に自身に全財産を相続させる旨の遺言があり、さらに遺留分のある相続人が他にいる場合には、少なくとも1年は(相続発生さえしらない相続人がいる場合には、10年間は)、請求に備えておく必要があります。

たとえば、相続で受け取った預金をすぐに自宅のリフォームなど大きなことに使ってしまうと、いざ遺留分侵害額請求をされた際に、支払い原資がなく資金繰りに奔走すべきこととなる可能性があるためです。

ご自身に財産の大半を相続させるような遺言書があった場合には、このような点に注意しておきましょう。

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