改正で新設された、自筆証書遺言の保管制度
2018年に成立した改正相続法(民法 相続編の改正)の一環として、法務局での自筆証書遺言の保管制度が新設されました。この制度は、2020年7月10日からスタートしています。
では、この制度を利用し、無事に法務局へ保管がされれば、その遺言書に問題がないというお墨付きをもらったと考えて良いのでしょうか。
チェックは、形式面のみ
遺言書の保管申請時には、形式面(所定の様式に合うかどうか)のチェックはしてもらえるようです。しかし、だからといって、必ずしも遺言書に問題がないというわけではありません。
遺言書保管制度を利用する際の注意点
最も懸念するのは、保管の際に形式的な確認がされることから、「問題ない遺言書が簡単に作成できる」という誤解が広まってしまう点です。
公正証書でも自筆証書でも同様ですが、形式的に無効でないということは、あくまでも、問題のない遺言書を作成するための、最低限の要件でしかないためです。
問題のない遺言書を作成するには、形式的に無効でない点はもちろん、それに加えて下記のような、多岐にわたる検討が不可欠です。
- 遺留分のことは検討しているか。もし遺留分侵害額請求をされた場合、支払えるのか。
- 相続税はそれぞれの相続人・受遺者が支払えるのか。
- せっかくの特例が使えない内容となっていないか。
- 不要な譲渡所得等がかかる内容となっていないか。
- 手続きはスムーズにできるのか。誰が手続きをするのか。
- 財産を渡したい相手が先に死亡してしまうなど、今後の状況の変化に対応できる内容なのか。
上記は一例ですが、遺言者の状況により、様々な角度から検討し、リスクを減らしておかなければ、いくら形式上は有効であったとしても、残された家族を困らせる遺言書となってしまいかねません。
このような検討が漏れていても、例えば法務局に遺言書の保管を申し出た際に、
「この遺言書だと譲渡所得税が多額にかかりますが、大丈夫ですか。」とか、
「遺留分を侵害していますが、もし請求されたら〇円くらい支払えますか。」
とか、
「この内容だと相続税の特例が使えませんが、良いですか。」とか、
そんなことは原則として教えてはくれません。
見てくれるのはあくまでも、「きちんと署名押印があるか」「財産目録にも署名押印があるか」「日付は書いてあるか」といったような、形式面なのです。
拙著でも記載の通り、問題のない遺言書を作成することは、実はそれほど簡単なものではありません。専門家がかかわった遺言書でさえも、問題のあるものが散見されているほどです。
後世に問題を残してしまわないためにも、無理に一人で作成してしまうのではなく、専門家も活用しながら、後悔しない遺言書を作成して頂きたいと思います。
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