遺言書は、つくって終わりではない。
「遺言書を自分でつくるキット」のようなものも売られており、遺言書を自分で書こうとする方が増えているようです。
しかし、注意してください。遺言書は、大事な財産を大切な人に渡すための、とても大きな効果を持つ書類です。「押印する」「日付を書く」など最低限の要件は満たせても、問題のない遺言書を自分でつくるのは、実はそれほど簡単なものではありません。
遺言書は作って終わりのものではなく、残された家族が、実際に問題なく手続きに使えなければ、意味がないのです。
現実問題として、残されたご家族が「亡くなった家族が自分で書いた遺言書があった」と見せてくださったもので、まったく問題のないものは、残念ながら一つも見たことがありません。
財産の記載があいまいな遺言書
問題のある遺言書には、必要な想定がされていない、遺言執行者の記載がない、誤字の訂正方法が誤っている、税金のことを無視している・・など挙げればきりがありません。
そんな中、やはり多いのは、財産の記載が曖昧というケースです。
例えば、実際に見たことがあるのは、このような遺言書です。
「私の家は、長男である山田A男に相続させます」
このかたは、おそらく、「自宅の土地と建物」を長男に相続させたかったのだと思います。しかし、「家」というのはあくまでもウワモノである「建物」を指します。この遺言で土地も長男に、と読み取るのは、残念ながら難しいでしょう。
不動産は、「土地」と「建物」にわかれていて、それぞれに「所在」「地番・家屋番号」「平米数」「構造」など、その不動産を特定するための情報があります。問題なく手続きを行うためには、これらをしっかりと記載しておく必要があるのです。
また、次のようなケースもありました。
「お金は、すべて長女吉田B子に相続させる。」
皆さんは、「お金」というと、何をイメージされますか。100円玉、500円玉といった硬貨、1万円札などのお札、そして、預金通帳などでしょうか。
実は、法律上、硬貨やお札は「お金」に違いありませんが、「預金」は厳密にはお金ではありません。預金は、その字の如く、銀行への「預け金」、つまり債権です。
そのため、この遺言書をB子さんが銀行に持って行った場合、銀行がすんなり、遺言者のお金をB子さんに払い戻してくれる可能性は低いでしょう。銀行によって対応は異なりますが、おそらく、「B子さんに預金を払い戻すためには、B子さんの以外の相続人全員の実印と印鑑証明書をが必要」、という対応をする銀行が、ほとんどであるはずです。
他の相続人の印鑑が必要になるなら、一体何の為に遺言書を書いたのか、本末転倒です。
遺言書作成は専門家を活用しよう
このように、自分で書いた遺言書には、記載が曖昧であるものが少なくありません。問題のない遺言書をつくるのは実はそれほど簡単ではないのです。
安易に作成して、残されたご家族に負担をかけないためにも、ぜひ遺言書は専門家に相談をしながら作成するようにしましょう。
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